解雇法理

準拠法

外資系企業の場合であっても、解雇事案については日本法が適用されます(法の適用に関する通則法第12条)。

厳しい解雇規制

欧米と異なり、日本では解雇は厳しく規制されています。当該解雇において、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当といえない場合には、解雇は無効とされます(労働契約法第16条)。日本では、多数の事案が解雇無効という結論になっています(下記参照)。

判決日タイトル基本給解雇の種類
Barclays令和3年12月13日
東京地裁
MD4200万円整理解雇
Credit Suisse平成24年1月23日
東京地裁
D2200万円普通解雇
(PIP)
Merrill Lynch平成15年9月17日
東京地裁
D1800万円懲戒解雇

解雇の種類

実務上、解雇は理由の所在によって分類されます。経営上の理由であるときは使用者(会社)の都合による解雇であり、職務遂行能力の喪失・低下(能力不足、成績不良など)や労働契約上の義務違反(規律違反行為など)の労働者個人の個別的な理由による解雇です。

整理解雇使用者が経営不振などのために従業員数を縮減する必要に迫られたという会社側の理由により一定数の労働者を解雇する場合
普通解雇勤務成績の不良や規律違反行為などの労働者個人の理由による場合(後者が懲戒処分によって行われたときは懲戒解雇となる)

裁判における考慮要素

整理解雇の場合には、次の整理解雇の4要素といわれる要素を総合考慮して解雇の有効性が判断されます。

  1.  人員削減の必要性
  2.  解雇回避努力の相当性
  3.  人選の合理性
  4.  手続きの妥当性

普通解雇、特に能力不足や成績不良などの場合には、次のような要素を総合考慮して解雇の有効性が判断されます。

  • 職務内容
  • 採用理由
  • 勤務成績の不良の程度
  • 改善の余地 など

普通解雇、特に規律行為違反などの場合には、次のような要素を総合考慮して解雇の有効性が判断されます。

  • 規律違反行為の態様・程度
  • 規律違反行為の回数・頻度
  • 改善の余地
  • 他の事例との均衡 など
  • 懲戒解雇として行われる場合には、上記に加えて、就業規則において懲戒の種別・事由が定められて周知されていたこと、及び懲戒処分の時点での使用者が当該規律違反行為を認識していたことが必要不可欠の前提となります。

証拠と証人の関係

裁判実務においては書証が重要視され、証人尋問の前に裁判官の心証が80%形成されるといわれています。労働関係訴訟は特に証拠が使用者(会社)側に偏在しているといわれる類型であり、外資系では多くの場合に退職勧奨と同時に会社施設への立ち入りやPCへのアクセスができなくなるため、事前の証拠確保が重要となります。  

勝訴した場合

解雇無効訴訟に勝訴した場合、通常は、次のような判決がされ、労働者としての権利を有する地位が確認され、解雇から判決までの賃金が支払われることになります。

  • 労働契約上の権利を有する地位の確認判決:解雇無効が前提
  • 未払賃金(解雇から判決まで)の給付判決:通常は3%の遅延損害金が加算

判決の後、割増退職金支払と離職を合意するなど、当事者の和解によって職場に復帰しない場合もあります。